平井武人 Bujin HIRAI
f450はレイ・ブラッドベリの小説「華氏451」から触発されてつけた名称である。
「華氏451」は近未来の焚書の話であり、その温度は紙が発火する温度を示している。
Fahrenheit(華氏) 450 = f450 は比喩的に「紙」という物質が発火して「別物」に変容する直前のポイントを示す。
「紙に象徴される物質(アナログ)」と「デジタルデータという非物質」の境界線を意味している。
私はアナログ/デジタルどちらの領域も横断した作業を行いたいと考えており、それを示す名称として「f450」と呼称している。
明治神宮での展示をイメージしたときに神聖な白という色彩が思い浮かんだ。
通常は黄金背景テンペラの手法で鏡面仕上げした金箔作品を制作しているが、その過程の磨き上げた白い石膏下地が美しく、いつかそれを展示したいと考えていたことも理由の一つである。
伝統技法と最新のデジタルテクノロジーを融合させた作品は明治神宮にふさわしいと考えた。
刻印されたモチーフは私が近年興味を持って研究しているデューラーのmelencholiaⅠを解釈、再構成したものである。
melencholiaⅠは一見関連性の無いような多様なモチーフで構成された世界を超絶的技巧で表現されており多義的な解釈を可能にしている。その絵画は凝縮された世界でフラクタル的な奥行きを持つように思える。
melencholiaⅠで使用されているモチーフとフラクタル的イメージを重ね合わせた図像をデザインした。
フラクタルはある種の迷宮のようなイメージを持ち、有限の中に無限の構造を持つ。
迷宮は迷うという明確な目的を持ち「明確に迷う」という語義矛盾的な点が魅力であると思える。
melencoliaⅠは迷宮=フラクタルのような絵画であり、その迷宮の悦楽を私なりに解釈したものがこのM3である。
平井武人 Bujin HIRAI
1964年生まれ。群馬県出身。東京藝術大学美術研究科修了。1988年兵藤忠明とH et H(アッシュエアッシュ)を結成。自身の写真を使った大型インスタレーションなどから始まり、書籍とIT技術を重ねた、知的な作品を多く発表。プロジェクトf450を個人で並行して行う。近年は個人プロジェクトもH et Hの作品として組み込んでいる。主な展覧会は、「ENTROPY」(東京藝術大学陳列館、1991)、「The Homeostasis」(レントゲン藝術研究所、1992)、「Theme: AIDS」(Henie Onstad Kunstinstitut、1993-1994)、「Closure」 (Axis Gallery、2002)、「f450 Number Book」(un petit GARAGE、2018)。